担当編集者が語る、ビッグな名作が生まれる現場!
『報復刑』担当編集者 前田大輔 氏インタビュー

2016/07/01
ビッグな名作が生まれる現場! 第5回『報復刑』

『報復刑』(作・トータス杉村)とは

死刑制度が廃止され、その代わりに被害者の遺族が加害者に直接「報復」することができる「報復刑」がある世界。突如肉親が犯罪に巻き込まれ、「報復刑」の権利を行使するかどうかを迫られる被害者遺族を中心に加害者や報復官たちが織りなす人間ドラマを一話完結で描く!
人気漫画アプリにインディーズ作品として公開されると、話題となり、閲覧数100万ビューを記録した話題作が“eBigComic4”に登場!
100万ビューを記録した「第0話」、オリジナル新作「第1話 フルスイング」、オリジナル最新作を公開中!
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●「100万人が読んだ作品」を描いた「新人作家」の正体とは?

――まず、トータス杉村先生の『報復刑』という作品と最初の出会いについてお聞かせ下さい。

前田 もともと漫画アプリの「LINEマンガ」インディーズと、「マンガボックス」インディーズに、最初の『報復刑』(eBigComic4では「第0話」として公開)が、投稿されているのを読みまして(非常に面白いし、売れそうだな。連載で読んでみたいな)という直感を得ました。

――売れそうだ、一緒に作品作りをしたいと惹かれたのは、どのあたりでしょうか。

報復刑

前田 第一印象は「絵柄がいいな」と思いました。見た時に入り込みやすい絵柄だと思いました。
それで、すぐお話したいと思いまして、翌日には作者のトータス杉村先生にメールで連絡し、翌日にはお会いしました。
当時、トータス先生がご自身でクラウドファウンディングで資金を集め、自力で連載して、電子書籍としてまとめられないかと模索されていたのですが、できることなら商業で連載してみたいともおっしゃられていましたので、「じゃあ、一緒にやりましょう」とお声掛けさせていただきました。

――トータス先生に実際にお会いになられた時の印象は、いかがでしたか?

前田 そのままだったかなという気もしますね。あまり漫画家さんにはいないタイプではあるかなという感じです。

――トータス先生はこの『報復刑』が商業デビューになるんでしょうか?

前田 一応、そういうことになっているんですが…。
でも、実は昔から漫画家を目指しておられて、一度、商業誌でデビューされているんです。連載にもなったのですが、その雑誌が2ヶ月くらいで休刊になってしまい…。そのまま就職されて、働いておられるうちに、「やはりもう一度漫画がやりたい」と思って、再び描き初められたんです。

――それで、漫画アプリに投稿を。

前田 そうです。仕事をしながら漫画を発表できる方法はないか、と考えられて、その時に漫画アプリがたくさん出てきましたので、そこに投稿されて。その後、まだ当時は、あまり漫画家の方が興味を持たれていなかった「クラウドファウンディング」で資金を集めて、『報復刑』を連載形式にして、単行本にできないかとされていたんです。

――トータス先生は漫画家と別のお仕事、二足のわらじを履かれているそうですね。

前田 普段はサラリーマンとしてお仕事をされています。平日は朝から夕方までIT関係の会社でシステムエンジニアをされていて、その後に漫画家の仕事をされて、土日は全部使って描いて頂いています。
連載中の『報復刑』の場合、月24ページなので、多いとは言えないですが、それでもなかなか平日は朝から夕方までフルタイムで働いて描かれるのは、けっこう難しいかなと思います。

――すごいですね。やはり、他の漫画家さんと進め方は違いますか?

前田 はい。割ける時間が決まっているので、スケジュールのコントロールが結構難しいというのはありますが、そこが、僕の仕事でもあるので。
先生ご本人はとても理論的な方ではあるんですが、スケジュール調整だけは、なかなか理論的に、とはいかない部分かもしれません(笑)。

――先生はお一人で描かれているんですか?

前田 そうですね。アシスタントさんもいなくて、一人でされています。作画はフルデジタルなのですが、デジアシ(デジタル・アシスタント)さんも使っておられないですね。
一番、時間をかけられているのがネームで、作画自体は、そんなに時間をかけておられないのですが、背景は写真を加工することが多いので、ご自身で気に入るカットを用意するのに、ある程度時間ががかかっています。


●売れるための二つの条件を備えた作品だった!

――『報復刑』の「第0話」が、LINEマンガで100万ダウンロードという、とてつもない数字を叩き出しているというのは、どういうところが受けたとお思いですか?

前田 これは僕の感覚なのですが、特に電子配信の場合は、「新鮮なキーワード」が入っている方が売れやすいという傾向があると思っています。

――「新鮮なキーワード」といいますと…?

前田 僕は売れる話、面白い話というのは「一言で伝えられる」ことなのかなと考えていて、その《一言》で語りきれる中に、《新鮮味》があると、より強いのかなと思います。
この『報復刑』という作品の場合は、タイトルに《報復刑》という一つの強いキーワードが入っていて、それが設定としても魅力的になっていると感じました。
「死刑制度がなくなって、遺族が加害者に《報復》できる」というのは、もしかしたら誰もが一度は考えたことがあるかもしれないですが、作品としては、まだありませんし、特に電子配信だと「尖っている作品」の方が、支持を受ける傾向があると思いますので、『報復刑』はまさにその流れにうまく当てはまっているなと思っています。
ネット上では、読んでいくうちにだんだん面白くなる、という作品よりは、《新鮮味》が求められている世界なのかなと思いますね。その中でも、《尖っている》もの、設定がハードなものが、ネットの中では強いのかなと思います。

――連載にあたって、「死刑問題」や「報復」といった、「死」に関係する大きなテーマを扱うことに対する、反発などはありましたか?

報復刑

前田 これも個人的な印象なのですが、無反応よりも、たとえ反発であったとしても、やはり何らかの反応がある方が、魅力的な、面白い作品だと思っていますので、もっと反応が出て欲しいなと思っています。
インディーズ版の読者のコメントを見ていても、やはり「報復刑」という制度は実現は不可能でしょうが、みんな妄想していたりするわけで、そのあたりがこの作品の魅力、心惹かれるポイントなのかなと考えています。

――誰にもある願望を漫画として描くということですね。

前田 そうですね。それが漫画として読めるというのは、人が抱いている一つの妄想みたいなものをうまく表現しているのかなと。
この作品の中では、エンターテインメント性よりは、現実性を重視して創っているところがありまして、それはトータス先生がお一人で描かれた「第0話」から、同じことが言えると思っています。
「第0話」は娘を殺された父親の話ですが、単純に他の設定で見てみたいなと思ったんですね。


●理系漫画家ならでは!?のキャラクターの創り方

――毎回、違う登場人物で描くということは、トータス先生も前田さんもかなりご苦労をされるのではないかと思うのですが……?

前田 これは始めてみて思ったのですが、最初は「第1話 フルスイング」のように、報復シーンを見せ場と考えて、様々な報復シーンを考えればいいんじゃないかと考えていたのですが、これは一つの欠点でもあるなと。
毎回、登場人物が違ったとしても、報復シーンを立てていくようなやり方をずっと続けていけば、既視感が出てしまって、同じような話、ワンパターンになってしまいます。
毎話、《新鮮味》を生み出していかなければいけないと思っていますので、その部分では苦労していますね。

――前田さんも、打ち合わせのときにはどんな内容にするかを提案されるわけですか。

前田 打ち合わせの段階で、先に、トータス先生に「今回はどんな話にしますか」とお聞きするんですが、すると先生の方から「今回こんな話を」というのが3案くらい出していただけるんです。
その中で「これだ」というものがあれば、「この部分はこうしましょう」という形で詰めていき、良いものがない場合は、口頭の段階でNGにして、「こういう話はどうでしょう」と打ち合わせしていく感じですね。

――毎回のキャラクター創りは、どのように行われていますか?

前田 キャラクター創りに関しては、トータス先生との打ち合わせの中で、実際にあった事件の話をしたりして、報道からは見えてこない部分を妄想しながら、キャラクター創りに役立てている、ということはありますね。ネームが上がってきた時などに、キャラクターの性格が「そうじゃないんじゃないか」と思ったら、そこは指摘したりもします。

――お互いに「いや、そこは譲れない」ということはあるんですか?

報復刑

トータス先生はITエンジニアをされているということもあって、感情的というよりも理論的に話す先生なのですが、やはり漫画家として「ここはこういうのが描きたくてこうしたんです」という場合もあります。
その場合でも「こういうキャラの場合、こういう性格だから、こういうセリフや言動には至らないんじゃないでしょうか」と理詰めでお話すれば、すんなり受け入れて、うまく修正していただける事が多いです。
そうやって理詰めでキャラクター創りをしていますね。

――トータス先生が当初、連載前にお一人で考えていた、さまざまなストーリーがあったと思いますが、それらのストーリーは今後登場するのでしょうか?

前田 ネタに関しては一旦、全部白紙にしました。新鮮味のあるものを、毎回一緒に作っていきましょうと。新鮮なネタを精査しながら、その都度、作っていくような流れになっていますね。


●5年前だと生まれなかった作品

――『報復刑』は漫画アプリの発表がSNSで拡散されて話題となり、デビューという形になりました。今後、このような流れは増えていきますか?

前田 『報復刑』は、漫画アプリのない5、6年前でしたら、100万人が読む機会もなく、連載中の『報復刑』も誕生せずに終わっていたのかなと思います。
トータス先生も、勤めていらっしゃることもあり、なかなか持ち込んだりできないけど、漫画アプリだったら、手軽に発表できるというところからスタートしていると思います。
作家さんにとっては、紙の漫画の世界への入り口はさらに狭くなっていくと思うのですが、トータス先生のように、いつでも誰でも載せられるネットの方がデビューへの窓口が広いと思います。
紙の雑誌の編集者が「面白くない」「掲載できない」といったレベルの作品でも、ネットで読者の人気を獲得したら、紙の漫画になっていく。そういう流れがありますので、作家さんのデビューのチャンスというのは、確率としては上がっているかなと思います。
一方で、別に漫画家を目指してないけど、という人が、漫画アプリに発表した作品が好評になって、たくさんの人に読まれることで「やってみようかな」という人も絶対にいるはずですので、面白い作品は生まれやすい傾向なのかなって思っていますね。

――紙の漫画は、次第になくなっていくということが言われていますが…

報復刑

前田 やっぱり、電子書籍の漫画は、現状だと紙のマンガには《満足度》は勝てないと思うんです。
紙だと、一気にパラパラと飛ばし読みしたりも出来るのですが、電子のマンガでは、最大でも見開きしか載せられない。そういう意味では、紙の漫画は新聞と同じで、絶対になくならないものなのかなと思っています。その比率も、徐々に電子の方が伸びてきているという話もあるのですが、たぶんどこかで上げ止まるのかなと考えています。
 ただ、僕らは紙を読んでから電子書籍に入った世代ですが、高校生くらいの親戚に聞くと、「マンガは全然紙では読まない」っていうんですよ(笑)。「そもそも、紙で読んだこと無いかも」というのを聞いたとき、この世代が伸びてくれば伸びてくるほど、電子の割合がどんどん伸びていくのかもしれません。そうなった時には、紙のマンガはほとんどなくなるんじゃないかという気もしていますね
 僕ら、紙の漫画を読んできた世代には、デジタル漫画はまだ発展途上だと思っていて、紙の満足度にデジタルは到達していないと思っているんですよね。でも、何か革命的に満足度が上がるような、「もうこれからはデジタルだよね」というようなものが現れたら、時代は一気に変わるのかもしれません。


●日本だからこそヒットする要素がある

――第5話で《報復刑執行官》という、《報復刑》の執行をサポートする公務員のキャラクターが登場しました。この《報復刑執行官》というキャラクターは今後も、シリーズを貫くようなキャラクターになったりはするんでしょうか。

前田 トータス先生は、最初にお会いした時に、あのエピソードを連載版の第一話に持っていきたいとおっしゃってました。報復刑執行官が出てきて、一人の社会人が成長していく姿、学んでいく姿を取り入れた連載のような形式でやりたいと。ですので、先生としては、一番思い入れが強いんじゃないでしょうか。
僕としても、その話をお聞きして、面白そうだと思って、今回の企画を提案した部分がありますので、「第5話」の報復刑執行官がやはり一番思い入れが強いキャラクターかもしれません。
今後、また登場するかは、相談して決めなければならないですが、個人的には彼らを再登場させれば、面白くて、濃い話を創れるんじゃないか、と思っています。

――『報復刑』の今後の展開、読者の方にお教え出来る範囲でお願いします。

前田 そうですね……「報復刑」という制度自体にこだわりを持ってやっていけたらと思っていますね。毎回毎回楽しんでもらえるように、《新鮮味》ということを心がけていきたいです。

――現実の世界で「死刑制度反対」があるように。この「報復刑」システム自体が、万人に受け入れられているかどうか、という問題もありますね。

前田 そういう展開も面白いと思っています。加害者の遺族が主人公の話とか。

――「死刑制度」がある日本だからこそ、ヒットする要素がある作品なのかもしれませんね。

報復刑

前田 そうですね。「死刑制度」については、トータス先生も、僕も個人としての意見はあるとしても、作品としてはどちらかを支持するというスタンスはとらないで、「もし、こういう《報復刑》の制度ができたら…」というのを提示する形で、読者の方に考えていただく形になるかと思います。

――電子書籍版の単行本がもうそろそろ、ということですが?

前田 7月1日に、eBookJapanで電子書籍版単行本第1集の先行配信、ということで、トータス先生もすごく楽しみにしています。

――eBigComic4は電子媒体ですが、紙のビッグコミックを読んでいる中高年の方の意見も聞いてみたい気がします。紙の単行本で出るといいなあと期待しております。魅力的な世界観なので、ドラマ化したら面白そうだなあとも思いますね。

前田 どちらも、まずは電子書籍の結果次第ですね(笑)。

――今後も楽しみにしています。どうもありがとうございました!

前田 大輔

前田大輔

「エッジスタ」編集部に在籍し、数多くのWEB漫画の編集に携わる。eBigComic4連載中の『報復刑』を担当中。



取材・文 山科清春
(2016年5月11日 小学館にて)



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